ここではECPR(V-A ECMO、PCPS)の適応基準について、自施設内でのプロトコルづくりの参考になるようなガイドラインや、文献をまとめてみました。
今回はより詳細にまとめていきます!
ECPRやV-A ECMO、PCPSなどの用語の解説や概要、ECMOの基本情報についてはこちらをご覧ください!
- V-A ECMOの適応
- V-A ECMOの導入基準
- V-A ECMO導入までの時間の理想
- V-A ECMOの病院前導入
目次
V-A ECMO導入前に考慮すること
V-A ECMO(ECPR)を行うにあたって、まず必要な条件は以下が挙げられます。
- 心停止の原因が可逆的であること
- ROSC後に社会復帰が期待できること
- 標準的なCPRに対する治療抵抗性の心停止であること
SAVE-J研究での導入基準などを参考に作成しています。
V-A ECMOの適応疾患
適応疾患は次のようなものが挙げられます。
- 急性心筋梗塞
- 劇症型心筋炎
- 肺動脈塞栓症
- 薬物中毒による心不全
- 難治性不整脈
- 開心術後低心拍出量症候群(LOS:Low Output Syndrome)
- 重症肺高血圧症
- 治療抵抗性アナフィラキシーショック
- 偶発的低体温症に伴う循環不全
- 大量喀血、肺胞出血
- 高リスク手術症例(例:褐色細胞摘出など)
- 敗血症性心筋症、産褥心筋症など(絶対適応ではない)
心停止の原因が可逆的であること
これは例えば、急性冠症候群(ACS:Acute Coronary Syndrome)による心停止で、緊急PCIやCABGなどによって心停止の原因が取り除けるものを指します。
「不可逆的」と考えられるのは脳障害による心停止などが挙げられます。
前の項で挙げた適応疾患は、適切な処置によって治療ができる(=可逆的)と考えられるため、
その『適切な処置』ができるようにV-A ECMOによる補助循環で時間を稼ぎ、治療が行われます。
2021年のELSOガイドライン(中間報告)には
VA ECMO may support patients for days or weeks as a “bridge-to-decision” that includes weaning after recovery of cardiac function, transplantation, long-term mechanical circulatory support (MCS), and withdrawal in the case of futility. VA ECMOは心機能回復後の離脱、移植、長期機械的循環補助(MCS)、無益な場合の離脱を含む”決断への橋渡し”として、数日から数週間、患者をサポートすることができる。 参考文献;ELSO Interim Guideline ; ASAIO Journal: August 2021 - Volume 67 - Issue 8 - p 827-844(リンク)
と記載されており、V-A ECMOによるサポートが無益であると考えられる場合、医療者や家族が”中断する決断”をするまでの時間的猶予として使用されることもあります。
ROSC後に社会復帰が期待できる
ROSCとは自己心拍再開(ROSC:Return Of Spontaneous Circulation)の訳で、
V-A ECMOによる治療の先に、社会復帰が期待できるかということも考慮されます。
社会復帰が期待できない例としては、心停止発症前のADL(Activities of daily living:日常生活活動度)が不良の方や、担癌患者などが挙げられます。
ECPR導入前の情報収集が重要ですが、限界があります。
身元不明で院外心停止を起こしたケースや、家族と連絡が取れないケースなど、V-A ECMOを導入してから患者さんの情報が判明することは稀ではありません。
導入の際に社会復帰が期待できるか否か、という部分に縛られて導入が遅れることは避けるべきと考えれるため、この項目に関しては参考程度に留めておくことをおすすめします。
標準的なCPRに対する治療抵抗性の心停止であること
この条件には以下の項目が挙げられます
- BLS、ACLSによる救命処置を行うも、ROSCが得られない心停止
- ACLSによりROSCが得られるも、再び心停止になり、心停止とROSCを繰り返す
- ROSC後に循環動態が不安定
BLS:一次救命処置(Basic Life Support)、ACLS:二次救命処置(Advanced Cardiovascular Life Support)
ACLSによる気管挿管=人工呼吸器管理や除細動器(AED)の使用、静脈路確保→薬剤投与などの処置を行ったにも関わらず、心停止が継続する例や、Vf stormなどのROSCとVfを繰り返す例、また自己心拍再開後も循環動態が不安定な例を含めて、治療抵抗性の心停止としてまとめられています。
- 心停止の原因が可逆的か
- ROSC後に社会復帰が期待できるか
- 標準的なCPRに対する治療抵抗性の心停止、または循環不全であるか
心停止〜ECPR駆動までの時間も重要
人間は心肺停止状態になると、1分経過するごとに7〜10%ずつ救命率が下がる1ことがわかっており、迅速かつ的確なCPRが求められます。
参考文献:1.European Resuscitation Council, Resuscitation, 2000; 46: 73–91.(リンク)
そして一連の標準的なCPRに反応しない症例に対して、条件付きでV-A ECMOによる循環補助が行われます。
ECPRによる救命率を向上させるためには、1分1秒でも速い導入がカギとなりますが、
心停止〜ECPR駆動は何分以内を目標とするのか?
そして、どれくらいの時間まで許容できるのでしょうか?
心停止からECPR駆動までの時間と生存率に関する報告があるので、ここにまとめておきます。
Chen YS, et al : JACC Journalからの報告(2003年)
台湾の単施設で行われた、院内心停止患者に対してECPRを行った際のデータ解析を報告しています。
- 57名の対象患者
- 年齢57.1±15.6歳
- CPRからECMO開始までの平均時間(CPR継続時間)は47.6±13.4分
- 離脱率は66%、生存率は31.6%
- CPR継続時間は離脱した患者群が45.0±13.4分に対して、離脱できなかった患者群は52.9±11.6分(p=0.027)
- 生存者に条件を絞ると、生存者群が39.2±13.7分に対して、非生存者群は51.5±11.3分(p=0.0014)
- 生存率はCPRの持続時間が60分未満の方が60分以上の方よりも高かった(p = 0.004)
- CPR持続時間が45分未満の人と60分未満の人の間では、生存率と離脱率の両方に統計学的な差を示すことができなかった
この結果から、心停止からECPR駆動までの時間は60分以内で生存率が上がると報告しています。
Sakamoto T, et al : Resuscitationからの報告(2014年)
言わずも知れた、日本で行われた院外心停止へのECPRの多施設共同研究(SAVE-J study)です。
2022年にはSAVE-J Ⅱ studyの結果が報告されていますので順次更新していきます。
ここではこの文献内の心停止〜ECPR駆動までの時間について触れていきます。
- 454名の対象患者
- 119番通報、あるいは心停止から病院到着までの時間が45分以内で、病院到着後、15分間心停止が継続している症例が対象
- CPC 1または2は、ECPR離脱1ヵ月後にECPR群で12.3%(32/260)、非ECPR群で1.5%(3/194)(P < 0.0001)
- 6ヵ月後ではそれぞれ11.2%(29/260)、2.6%(5/194)(P = 0.001)
この研究においても心停止からECPR駆動までの時間を60分以内に限定したところ、非ECPR群と比較して神経学的予後が良好であったと報告しています。
しかしこの研究では非ECPR施行群においてTTM(体温管理療法)が完遂されておらず(89% vs 46%,p<0.001)、十分な蘇生後処置が行われていないことがわかっているため、結果には注意が必要です。
CPCについて
CPC 1【機能良好】:意識は清明、普通の生活ができ、労働が可能。障害があっても軽度の構音障害、脳神経障害、不全麻痺など軽い神経障害あるいは精神障害まで
CPC 2【中等度障害】:意識あり。保護された状況でパ-トタイムの仕事ができ、介助なしに着替え、旅行、炊事などの日常生活ができる。片麻痺、けいれん、失調、構音障害、嚥下障害、記銘力障害、精神障害など。
CPC 3【高度障害】:意識あり。脳の障害により、日常生活に介助を必要とする。少なくとも認識力は低下している。高度な記銘力障害や痴呆。”Locked-in”症候群のように眼でのみ意思表示できるなど。
CPC 4【昏睡、植物状態】:意識レベルは低下。認識力欠如。周囲との会話や精神的交流も欠如。
CPC 5 【死亡、脳死状態】
引用元:総務省消防庁HPより(リンク)
Tobias W, et al : Critical Careからの報告(2017年)
ドイツの単施設で行われた、院内・院外心停止患者に対してECPRを行った際のデータ解析を報告しています。
- 133名の対象患者
- 年齢58.7±2.6歳
- 院内心停止は74例、院外心停止は59例
- 心停止からECPR駆動までの時間は全患者で59.6±5.0分で、院内心停止群は院外心停止群よりも有意に短かった(49.6±5.9分 vs 72.2±7.4分、p<0.001)
- 生存率は院内心停止で18.9%、院外心停止で8.5%と有意差があった(p<0.042)
- 生存率は心肺蘇生時間が20分未満の患者(n=14)で67%、20~45分の患者で29%(n=33)、45~60分の患者で10%(n=43)、60~135分の患者では6%(n=43)であった
- 院内・院外ともにECPRまでの時間が短ければ短いほど予後が良好であった
これも心停止〜ECPR駆動までの時間が短い院内心停止症例で生存率が高かったことから、院外心停止症例も時間を短縮することで生存率を向上させることができることを示唆しています。
結論:心停止〜ECPR開始は60分以内を目指す
以上のことから、
やはり院外心停止では心停止からECPR開始までの時間は60分以内を目指し、院内心停止ではさらに導入を早めることで生存率を向上させることができると考えられます。
当たり前でしたね・・・
しかし、このECPR導入までの時間が61分になりそうなところで適応外になるとは考えにくいです。
また、SAVE-J studyのサブ解析でも病院到着時に除細動が可能な心電図波形(心室細動などのshockable rythm)であった場合は予後が良い※と報告されています。
参考文献:※ Nakashima T et al : Circ J.2019 ; 83 : 1011-8.(リンク)
現在国内でも病院前導入が進んでいる
海外では覚知から導入までの時間をより短縮するために救急要請を受けてから現場へ直接ECMO導入のためのチームを派遣するPre-Hospital ECMOが盛んに行われています。
最近ではオランダからPrehospital ECPRについての研究が開始されています。
そして2020年10月から、国内でも済生会宇都宮病院がPre-hospital ECPRやECMO搬送を行うための大型ドクターカーを導入し、2021年1月には病院前ECPRが行われました。
プロフェッショナルたちによる活動ではありますが、今後より速い導入を目指してこのような活動は広まっていくことが予想されます。
今は施設内で、事前にECPR,VA-ECMOの導入プロトコルを可能な限り決めておくことが、
導入までの時間の短縮への近道かと思われます!