ここではECMOのカニューレについてまとめています。
最近またカニューレの種類が増えて大変です・・(涙)
どうやって使い分けるかわかりません・・
一緒に勉強していこうね・・(涙)
ECMOカニューレの選び方から、現在販売されているカニューレの概要についてを一気にまとめています!
目次
ECMO別のカニューレ選択
V-A かV-V でカニューレは変わる
カニューレにはV-A ECMO用のものと、V-V ECMO用のものがあります。
V-A ECMOは導入にスピードが求められるので、挿入しやすいカニューレが好まれます。挿入のしやすさはカニューレの固さによって異なり、固いカニューレほど挿入しやすい傾向にあります。
V-V ECMOは長期間安定した血液流量が得られるようなものが求められ、リハビリテーションを行う際に邪魔にならないような、かつ折れ曲がらないような柔軟性のあるカニューレが選択されます。
種類とサイズがたくさんあります!
- V-A ECMOはすばやく挿入しやすい固めのカニューレを選ぶ
- V-V ECMOは柔軟性のあるカニューレを選ぶ
V-A ECMOでのカニュレーション部位
V-A ECMOは動脈と静脈に1本ずつカニューレを挿入します。
主に下肢の大腿動脈と大腿静脈が選択されます。
血管の走行の関係で、脱血は右が選択されやすく、送血は左右どちらとも選択されます。
(脱血カニューレは長さが50〜65cmあるので、大腿静脈から右房まで解剖学的にまっすぐ走行する右足側からだとカニューレが進みやすい)
V-A ECMOについての基本情報はこちらをご覧ください!
V-V ECMOでのカニュレーション部位
V-V ECMOは脱血・送血どちらとも静脈に挿入します。
挿入する部位は施設によってさまざまで、メリット・デメリットがありますが、基本的には内頸静脈と大腿静脈が選択されます。
この図では右内頸静脈経由で、カニューレ先端を下大静脈に留置し脱血、右大腿静脈経由で送血カニューレが留置されています。
送血・脱血をこの図と逆にする施設もありますが、足(大腿静脈)から脱血カニューレを挿れる際は、先端を右房に留置させるために長いカニューレを選択する必要があります。
V-V ECMOについての基本情報はこちらをご覧ください!
V-V ECMO用に内頸静脈へ1本カニューレを挿れるだけで済むダブルルーメンカニューレもあります。
V-V ECMOでは図の通り静脈内で脱血・送血を行うため、酸素化した血液を再度脱血してしまう再循環:リサーキュレーションが起こります。
通常再循環を考慮して低い方法を選択しますが、安定した流量がほしいなどの理由から施設ごとにカニュレーション部位が異なります。
※再循環率はさまざまな影響で変動するのでこの限りではありません。
ダブルルーメンカニューレは、これらと比較して一番再循環率が低くなります。
- V-A ECMOは大腿動脈・静脈へカニュレーションする
- V-V ECMOは内頸静脈・大腿静脈へカニュレーションするが、部位は施設や症例による
- V-V ECMOでは再循環率を考慮して部位を決定する
- V-V ECMO用のダブルルーメンカニューレは内頸静脈のみで済み、再循環率が一番低い
カニューレの選び方
カニューレサイズは患者さんの体格や血管径、血管の走行などを見つつ、安定して血液を循環できるようなもの選ぶ必要があります。
では、どれくらいの量を循環させたらいいのか?
そして安定してその量を得るためには、どのようにカニューレを選べばいいのか?
なぜ安定させる必要があるのか?
などを考える必要があるため、それぞれ解説していきます!
酸素供給量(能)を考える
ECMOは心臓や肺を代行するものです。
肺の機能は血液に酸素を取り込み二酸化炭素を排出すること =呼吸
心臓の機能は酸素化した血液を体全身に届けること =循環
つまりこれらの機能を代行するため、人工肺によるガス交換と遠心ポンプによる血液循環が行われます。
ECMOでは酸素化した血液をどれだけ高い効率で全身に送ることができるか、が重要になります。
そのためには患者さんの酸素需要量に対して、高い酸素供給量を保ち続ける必要があります。
ECMOの酸素供給量は以下のように求めることができます。
人工肺に酸素を流すと自然と酸素飽和度は100%近くになり、計算式においても100%=1.0になるだけなのでここではSaO2は無視します。
さらに、PaO2の部分も人工肺で自然と500mmHg近くに上がりますが、0.003を掛け算しなければならないため、酸素供給量にはほぼ影響しない値になります。
PaO2を500mmHgにあげても500×0.003=1.5しか供給量が上がりません。
よって、酸素を運ぶためのヘモグロビンと、送り届けるための安定した血液流量が非常に重要になります。
必死に血液の酸素化を強化するよりも、ヘモグロビン値やFlowを調整したほうが対処方法として正しいのです。
酸素の供給と需要のバランスを考える
組織における酸素の需要量は『酸素消費量』として求められます。
この酸素消費量と酸素供給量には次のような関係があります。
Aが正常時の酸素供給量で、Bは供給量の増加、
Cは嫌気性代謝(組織の低酸素)が起こる閾値
Dになると十分な酸素供給量が得られず酸素消費量が低下します。つまり代謝の低下が起こってしまいます。
酸素消費量(VO2)は通常、成人で約200ml/minとされています。
酸素供給量(DO2)は通常、成人でCO = 5 L/min、Hb = 15 g/dl、SaO2 = 100%、PaO2 = 120mmHgとすると、
DO2 = 5 × 1.0 × 1.36 × 15 × 10 + 0.003 × 120
DO2 ≒ 1000 ml/min
正常な成人では酸素消費量に対して、5倍程度の酸素供給をしていることがわかります。
しかし、酸素消費量はさまざまな影響(発熱や努力呼吸など)によって変動する上、臨床で真の値を計測するには患者さんの混合静脈血酸素含量を計測する必要があり、正確な値の計算は困難です。
代謝モニターなどで計測をして参考値にする場合もあります。
なので、ECMO回路で脱血側の酸素飽和度をモニタリングするなど、経時的に、総合的に酸素消費量を推測し、
かつ、高流量とある程度のヘモグロビン濃度を維持することで酸素供給量を高めに設定します。
脱血側のサチュレーションが経時的に低下→酸素消費が上がった?→患者さんの変化を精査する→嫌気性代謝所見があればECMO Flowを上げる検討をする。といった具合です。
カニューレサイズの選択として、あまりギリギリを攻めるとこのような酸素供給と需要のバランスの崩壊に対応できないため、ある程度余裕を持ったサイズを選ぶと良いでしょう。
必要な血液流量を考える
欲しい血液流量の目安は患者さんの体格によって決まります。
ELSOのガイドラインではこのように推奨しています。(ELSOガイドライン リンク)
V-A ECMOの場合
回路部品は、3L/m2/min(乳児で100ml/kg/min、小児で80ml/kg/min、成人で60ml/kg/min)の血流量を得られるように選択する。十分な体灌流を示す最良の指標は、静脈血酸素飽和度>70%である。 VAアクセスでは、動脈の脈圧が最低でも10mmHgとなるまでポンプ流量を低下させる(ECLS中、心臓と肺に連続的な血流があることを確認できる)のが理想的であるが、重篤な心機能障害では不可能なこともある。
V-V ECMOの場合
少なくとも正常な代謝を営む患者で、酸素供給とCO2除去を行なえる血流量が必要である(酸素供給は乳児で6ml/kg/min、小児で4-5ml/kg/min、成人で3ml/kg/min)。これは、VVでの血流に換算すると、乳児で120ml/kg/min、成人で60-80ml/kg/min である。 酸素供給能は、血流量、ヘモグロビン濃度、インレットのヘモグロビン酸素飽和度、膜型肺の性能による。 VVアクセスでは、動脈血及び静脈血の酸素飽和度がそれぞれ80%、70%を超えていれば十分な補助である。VVアクセスのポンプ流量は、最大値から目標とする酸素飽和度が得られるところまで低下させる(SatO2>80%)。生理学的指標(平均血圧、動脈血と静脈血の酸素飽和度)の目標値を設定し、これが得られるように流量を調節する。
まとめると、患者さんの状態を見ながら流量を増減しますが、
70kgの成人のとき
V-A ECMOなら 4.2 L/min ± α
V-V ECMOなら 4.2 〜 5.6 L/min ± α
以上の流量を目安にカニューレを選択します。
体表面積から求めたりもしますが差はほぼありません。
カニューレの太さと長さを考える
安定した血液流量を得るために、脱血側のカニューレはなるべく太くて短いものを選択します。
ハーゲンポアズイユの法則は血液のような粘性のあるものが管を通るときに使用できます。
得られる血液流量はカニューレの半径の4乗に比例し、長さに反比例するので、太く・短いカニューレを選択すれば多くの血液流量が得られます。(図左)
挿れるカニューレが太すぎても血管を閉塞してしまうので、血管径に応じてできる限り太いカニューレを選択します。
そこで、ECMOの際は血管径[Fr]の2/3のカニューレサイズを推奨しています。(図右)
血管径[mm]の『2倍以下』と覚えればOKです。
例:血管径15mmなら30Fr以下の必要な血流量を得られるようなカニューレを選択
カニューレを決定する
ECMOに必要な血液流量は患者さんの体格から求められ、その血液流量を得るためには血管径の2倍以下のサイズで最大のものを選ぶことがわかりました。
目安としてはこのような早見表があります。
あれ?でもこの表にあるサイズをV-A ECMOで使ってるところなんて見たことないです・・
あくまで安定した血液流量を得るための目安で、色々な問題があります!
『安定した流量を得るための目安』ですので、これらのサイズよ細いカニューレを選択してもある程度の流量は取れます。
しかし、そこで問題になるのは血管内容量(血液量、ボリューム)の不足や、目標の流量を得るために遠心ポンプの回転数を上げざるを得ないことです。
血管内ボリュームは多すぎても少なすぎても人体に悪影響を与えます。
ここでは詳しく触れませんが、無理に血流量を得るためにはそれなりの血管内ボリュームが必要になり、適切に対処しなければ浮腫や肺水腫などの合併症を引き起こしてしまいます。
また、血液流量を得ようと遠心ポンプの回転数を無理に上げると、脱血回路内に陰圧がかかり、血液を壊してしまいます。
遠心ポンプの回転数の上限は遠心ポンプの種類によって異なります。
そもそも上限まで上げざるを得ない状況は、上記の理由から危険です。
しかしV-A ECMOでは時間の猶予がないため、経皮的に入れづらい太いカニューレは選びにくいのです。
したがって、まずは細いカニューレを入れてある程度ECMOを回してから脱血カニューレを内頸静脈などから追加する、といった対処方法もとられています。
V-V ECMOでは比較的時間に猶予があり、最大限太いカニューレを選ぶことができます。
- 安定した酸素供給量(ヘモグロビン量、血液流量)
- 患者さんの酸素消費量の変動を考える
- 患者さんの体格に合わせた血液流量の算出
- 血液流量に合わせた最大限太く短いカニューレ
- 挿入する部位の血管径、走行
- カニューレごとの圧力損失
- V-A ECMOでは脱血カニューレの追加も視野に入れる
ECMO用カニューレ一覧
現在日本で販売されているECMOカニューレをまとめてみました!
これらの中から、患者さんや、装置に合ったものを選択します。
それぞれ簡単に特徴と添付文書をまとめました!
TERUMO CAPIOX経皮カテーテルセット
- TERUMOのECMO回路とはロック式コネクタで接続が可能(接続が容易)
- 3/8(10mm)のストレートコネクタータイプもあるので他社装置とも接続可能
- Xコーティングという特殊なコーティングでHIT患者にも使用可能
- カニューレが比較的硬めであり、挿入しやすい
- 送血が16.5Fr、脱血が21Frまでしかないが、特注で送血21Frが発注可能
- サイズ展開的にもV−A ECMOでの使用を想定している
- サイドホールが少ない(10個)
泉工医科工業 PCKC -A2、V2
- 泉工医科のECMO回路とはロック式コネクタで接続が可能(接続が容易)
- 3/8(10mm)のストレートコネクターにもなっているので、他社装置とも接続可能
- ヘパリンコーティングとノンコーティングのカニューレがある。
- 比較的硬めに改良され、挿入しやすい
- V-A ECMO、V-V ECMOのどちらも意識したサイズ展開
- サイドホール(側孔)を少なくしたが、その分穴を大きくした
GETINGE HLSカニューレ
- 接続部は3/8(10mm)のストレートコネクターになっている。
- ヘパリンコーティングなので、HIT患者には使用できない
- 比較的柔らかめだが、先端部はステンレスで強化されている
- V-V ECMOを意識したサイズ展開で、脱血は29Frまである
- 『先端強化型』として診療材料費が他と異なる
Edwards Optisite、QuickDraw
- 接続部は3/8(10mm)のストレートコネクターになっている。
- 抗凝固コーティングはされておらず、HIT患者にも使用できる
- 比較的柔らかめだが、先端部はステンレスで強化されている
- どちらかというとどちらのカニューレも人工心肺のMICS手術でよく使用される。
- クイックドロウは長さの種類が多く、55、65、68cmがある
- クイックドロウは『先端強化型』として診療材料費が他と異なる
Medtronic BioMedicus NextGen Cannura
- 接続部は3/8(10mm)のストレートコネクターになっている。
- ヘパリンコーティングとノンコーティングのカニューレがある。
- 先端強化型として診療材料費が異なる。
- サイズ展開が豊富
添付文書リンクhttps://www.info.pmda.go.jp/downfiles/md/PDF/530366/530366_22800BZX00194000_B_01_02.pdf
GETINGE Avalon Elite
- 内頸静脈を経由し、送血・脱血を同時にすることができ、歩行訓練などのリハビリが容易になる
- 接続部は3/8(10mm)のストレートコネクターになっている。
- 抗凝固コーティングはされておらず、HIT患者にも使用できる
- 造影により送血位置を決定するか、経食道エコーで観察しながら挿入する必要がある
- GETINGEによる講習を施設単位で行うことで施設へ供給可能になる
- V-V ECMO専用カニューレ
- 31Frカニューレは経皮的に挿入できない
Avalonカニューレは挿入の際の合併症が多く、導入の際にはメーカーの講習を受ける必要があります。
【日本未承認品】Liva Nova Protek Duo
- 内頸静脈を経由し、右心房から脱血、肺動脈へ送血をすることで右心補助を行える。(最大4.5L/min ※)
- 接続部は3/8(10mm)のストレートコネクターになっている。
- 抗凝固コーティングはされておらず、HIT患者にも使用できる
- バルーン付きガイドワイヤーを挿入してカテーテルを留置する
- Proximal:29Fr、Distal:16Frの1サイズのみ
- 日本での薬事未承認であり、使用報告もなし
RVADとして使用されますが、携帯用ECMOとして使用することもできるようです。
※参考文献
Ravichandran AK, Baran DA, Stelling K, Cowger JA, Salerno CT. Outcomes with the tandem Protek duo dual-lumen percutaneous right ventricular assist device. ASAIO J. 2018;64(4):570–2.
まとめ
今回はECMOのカニューレについて、選び方や種類を解説しました!
カニューレ選びはECMOの肝であり、患者さんに合っていないカニューレ選びは予後に関連します。
カニューレの入れ直しもリスクがあるので、なるべく避けたいところです。
そのためにも、患者さんに合わせたカニューレ選びと、事前に相談ができるように施設内での密な連携が不可欠だと思います。
この記事がすこしでも臨床の役に立てれば幸いです。
これからもECMOに関する記事を更新していきますので、よろしくおねがいします!