ECMOでは人工肺の中空糸内に酸素と空気を混ぜたガスを吹送し、血液を酸素化しています。
ここではECMO中の吹送ガス(SweepGas)の設定方法などについて徹底的にまとめています。
ELSOのガイドラインではV-A ECMOかV-V ECMOかで酸素濃度などの設定方法が変わるため、その違いについても解説していきます。
- ECMOの吹送ガスについて
- V-V ECMO中の吹送ガスの設定方法
- V-A ECMO中の吹送ガスの設定方法
- ガスフラッシュについて
ECMOの基礎、V-A、V-V ECMOの違いなどについて知りたい方はこちらの記事をご覧ください!
吹送ガス(SweepGas)について
吹送ガス(SweepGas)とは
ECMOでは人工肺の中空糸内に酸素と空気を混ぜたガスを流し、拡散原理によって血液の酸素化・ガス交換を行います。
ECMOで扱われる吹送ガスは二酸化炭素を吹き飛ばす・掃き払うといった意味から、SweepGasなどとも呼ばれています。
現在のECMO装置には必ず酸素(O2)-空気(Air)ブレンダーがついており、
酸素濃度と吹送ガス流量を設定することで、血液を酸素化またはガス交換しています(CO2配管が付属しているものもあります)。
ECMO用の酸素-空気ブレンダー
左側でガス流量を設定し、右側で酸素濃度を設定できます。
この製品では流量計に微調整用(左側:20ml/min刻み)と、粗調整用(右側:500ml/min刻み)のダイヤルがついており、ガス流量を細かく設定できます。
SECHRIST(HPリンク)
酸素-AirブレンダーはECMO装置によっては装置に内蔵されているものもあります。
別記事でまとめていますので気になる方はこちらをご覧ください。
吹送ガス流量の調整方法は?
吹送ガスをどのくらい流すかについてです。
ECMOでは酸素-Airブレンダーから人工肺へ、設定した酸素濃度の空気を流しますが、その流す空気量を調節することで血液内の二酸化炭素(PaCO2)を排泄することができます。
ELSOガイドラインでは人工肺出口で測定した血液ガスのPaCO2の値を35〜45mmHgになるようにガス流量を設定すると記述があります。
(ただし、血液ガスのpH値や後述する調節時期によって適正値は変化するので注意が必要です。)
目標の値に調節するためには、
PaCO2の値を下げたければSweep gasを増やし、上げたければSweep gasを減らします。
PaCO2の値が高い場合は、このPaCO2を吹き飛ばす=Sweepさせるために流量を上げるといったイメージです。
SweepGasは酸素化には関与しません。
過換気では血液ガスでのPaCO2は減少し、低換気ではPaCO2は溜まるといったヒトの呼吸と同じ機序になります。
また、V-V ECMOでAwake ECMO(覚醒させながら行うV-V ECMO)を行う際にわざとCO2を飛ばし、呼吸数の増加を抑えるといった設定方法もあります。
ECMOの種類別の設定方法
V-V ECMO中の吹送ガス設定方法
ELSOガイドライン(ELSO Guidelines General v1.4)によると、
ECMO中は100%O2か95%O2+5%CO2の混合ガスを血液流量:ガス流量=1:1の比で設定する、と記述されています。
この比率はVQ比(Ventilation / Quantity ratio:換気血流量比)などとも呼ばれ、例えば血液流量が5L/minのとき、SweepGasを5L/min流すとVQ比1.0といった表記になります。
VQ比1.0でかつPaCO2とpHが適正値になるように適宜調整する必要がありますが、
2021年に発表されたELSOガイドライン(参考リンク)では、V-V ECMOの開始時は血液流量を2L/min、SweepGasも2L/minに設定し、血液ガス検査を頻繁に行いpHやPaCO2値をゆっくり適正値にしていく方法が推奨されています1)。
1) Tonna, Joseph E. MD, MS et al.Management of Adult Patients Supported with Venovenous Extracorporeal Membrane Oxygenation (VV ECMO): Guideline from the Extracorporeal Life Support Organization (ELSO). ASAIO Journal: June 2021 – Volume 67 – Issue 6 – p 601-610 doi: 10.1097/MAT.0000000000001432
開始時のPaCO2の急激な補正が神経学的損傷に関連するとの記述がありましたが、ガイドライン上には引用元の記載がありませんでした。
別の文献で導入直後のPaCO2の飛ばしすぎは、PaCO2の低下・pHの上昇により酸素解離曲線の左方移動が起こり、ヘモグロビンが酸素を離しにくくなること、PaCO2の低下による脳血管の収縮が関連するとの報告があります。2)
2) Romano TG et al. Extracorporeal respiratory support in adult patients. J Bras Pneumol. 2017 Jan-Feb;43(1):60-70. doi: 10.1590/S1806-37562016000000299. PMID: 28380189; PMCID: PMC5790677. (文献リンク)
また、別の文献もありましたので、自身のTweetを載せておきます。
この論文を参考にすると、「導入前に血液ガスを測定し、導入時〜24時間はPaCO2をその値の50%以下にしないように管理する」といった具合です。V-V ECMOは高二酸化炭素血症にも適応されるのでやはり注意が必要ですね。
V-V ECMO中は酸素濃度を100%にして管理する
V-V ECMO中は酸素濃度を100%にするという点がV-A ECMOを管理するときとは大きく異なるので注意が必要です。
酸素濃度を100%にしても、V-V ECMOでは送血した先の右心系で必ず患者さんの静脈血と混ざるため、全身へ回る血液の酸素分圧は低くなります。
ELSOレジストリを解析した論文では、V-V ECMO開始から24時間でのPaO2の上昇値(⊿PaO2)が80mmHg以上になると虚血性脳卒中のリスクが上昇するとの報告がありました。
ただ、V-V ECMOでの⊿PaO2上昇>80mmHgはかなり大きな数値です。やはり静脈内に送血するので⊿PaO2>80mmHgは難しいかと思わえますが、一応注意が必要です。
以上を踏まえると、
V-V ECMO中の吹送ガスは開始〜離脱まで酸素濃度を100%に設定し、PaCO2が35~45mmHg、かつpH が7.35〜7.45となるようにSweepGasを調整することが推奨されています。
日本ではCO2ガスを添加している施設は少なく、こだわっている施設では離脱テストの際にわざとCO2を添加し、患者さんのCO2クリアランスを確認してから離脱しているそうです。(私の施設ではやったことがありません・・・)
V-A ECMO中の吹送ガス設定方法
前述したELSOガイドライン(ELSO Guidelines General v1.4)の中ではV-A ECMO中のSweepGasの詳細な設定方法は記述されていません。
V-A ECMOは動脈に直接酸素化した血液を送るため、高酸素血症による影響を考慮する必要があります。
2021年に発表された成人における体外心肺蘇生法。ELSOガイドライン(暫定版) コンセンサス ステートメントでは以下のように記述されています。
- 下半身の低二酸化炭素血症、高酸素血症を防止するため、ECMO設定を変更するたびに人工肺直後の血液ガスを採取し、Normocapnia(PaCO2:35〜45mmHg)とPaO2 150mmHg程度になるようにSweepGasと酸素濃度を調整する。
- ROSCが発生した場合は頻繁に動脈血のガス分析を行い、SweepGasと人工呼吸器の設定を調整して低二酸化炭素血症を防止する。
- 高酸素血症はECPRも含めて心停止後の神経学的転帰の悪化と関連している可能性がある。高酸素血症を回避するために患者のSaO2(SpO2)を92〜97%になるよう調整することを推奨する。
ECMO人工肺直後からの血液ガスでPaO2を150mmHg程度に調整すると、心停止期では患者のSpO2は100%近くになるため、なかなかすべてを同時に達成するのは難しいかと思われます。
現在はPaO2<300mmHgで調節するのが主流
V-A ECMO中は高酸素血症を回避する必要がありますが、脳や全身への酸素供給は必須です。
ではいくつでコントロールしたらいいのか。
現在のV-A ECMOにおける酸素化の指標となっている文献をいくつか調べてみました。
ECPR開始後30分経過したときの人工肺直後のPaO2を測定し、High群(≧300mmHg)、Low群(≦60mmHg)、Normo群(60<PaO2<300mmHg)と定義。入院後28日目の死亡率を調査。
→平均PaO2は227±124mmHgで死亡率と PaO2 との関連が観察された (OR = 1.01 [1.01–1.02])。
目撃された心停止、バイスタンダー CPR、場所、乳酸と pH、年齢、および PaCO2で調整した高酸素血症の ORa は 1.89 (CI95 [1.74–2.07])。
単施設でのECPR後ろ向きコホート研究
正常群(60mmHg≤PaO2≤100mmHg)、軽度群(100 mmHg <PaO2≤200mmHg )、重度群(PaO2> 200mmHg)と定義。一次転帰は心停止後30日の生存率、二次転帰は30日間の良好な神経学的転帰。
正常群と比較して軽度群、重度群ともに生存率との関連はなし。(軽度群調整OR = 1.06; CI95[0.30–3.68]; p = 0.93、重度群調整OR = 1.05; CI95[0.27–4.12]; p = 0.94)
ラットでの研究
A群(PaO2 100〜199 mmHg)、B群(PaO2 200〜299 mmHg )、C群(PaO2 300〜399 mmHg)、D群(PaO2 > 400 mmHg)と定義。TNF-α、IL-6、IL-10と肺の乾湿重量:W/D比(炎症による肺水腫を想定)、を測定。肺と肝臓で活性酸素の産生を反映するジヒドロエチジウム(DHE)染色を行った。
→CおよびD群で、炎症性サイトカイン(TNF-αおよびIL-6)が他の群と比較して有意に増加。一方、抗炎症性サイトカイン(IL-10)の増加は、C群とD群で他の群よりも抑制されていた。
W/D比は、C群とD群で他の群よりも大幅に増加していた。さらにDHE染色はPaO2が上昇するにつれて増加する傾向があった。
文献を見てもPaO2>300mmHgでさまざまな障害が出る可能性があることから、
V-A ECMO中のSweepGas設定は人工肺直後での血液ガス値をPaO2<300mmHg、PaCO2は35〜45mmHg、になるように調整するのが無難だと考えられます。
また、患者がROSCした場合は自己肺での換気も考慮し、PaCO2の値を調整する必要があります。
当院ではECMO側のPaO2を200〜250mmHg程度に調整し、右手動脈血ガスとのPaO2の乖離がわかりやすいように管理しています。施設内でよく協議し、設定していただければと思います。
V-AV ECMO中の吹送ガスの設定方法(参考)
循環不全に加えて、肺の状態が悪くなった方へ適用されるV-AV ECMOでは各流量の調整+SweepGasの調整も重要になります。
静脈側へ100%O2を流すと動脈側へも100%O2を流すことになり高酸素血症になりやすくなりますし、かといってV-V ECMO側への酸素化が不十分ならハーレクイーン症候群が懸念されます。
私の力不足で、V-AV ECMOに対するSweepGasの設定について研究されたものはまだ見つけられていません。
V-AV ECMOでの吹送ガスは、ある程度の高酸素血症を許容し、rSO2や右手動脈血の値、酸素供給と需要のバランス、心拍出量などを総合的に見て協議し、設定する必要があります。
大変申し訳ありませんが、なにか詳細が分かり次第記事を更新していければと思います。
ガスフラッシュについて
ガスフラッシュとは?
長期間ECMOを運転していると血液(36〜37℃)と吹送ガス(5℃くらい)との温度差によって人工肺の中空糸内に結露が発生します。この結露が人工肺ガス交換の有効膜面積を減少させ、ガス交換能を低下させることがわかっています。
これをウェットラングといい、人工肺への吹送ガスを一時的に上げて結露を吹き飛ばすガスフラッシュを行うことでガス交換能を復活させることができます。
ウェットラングを予防する方法としてSweep Gasを加温(ベアハガーなどを使用して外部から加温)する方法がありますが、やはり多少の結露はできてしまいます。
- 手動で一時的にガス流量を一定時間増やす
- ガスフラッシュ機構付きのガスブレンダーを使用する
- ECMO装置内でガスフラッシュの設定を行い、定期的かつ自動で行う(泉工医科UNIMO限定)
①手動で一時的に上げ、元の設定に戻すタイプ
SECHRIST(HPリンク)
ガスフラッシュは空気混入の危険性がある
ECMO人工肺への吹送ガスは中空糸内へと送られていますが、通常血液層とガス層との圧力は血液層>ガス層となっており、中空糸内への空気の混入はありません。
しかし、過度なガスフラッシュやガスフラッシュ中の人工肺部分の回路内圧の低下によって人工肺内の圧力が血液層<ガス層となると、中空糸外へと空気が流れ出し、血液内に空気が混入する恐れがあります。
具体的には脱血側の回路がキンクしたり、遠心ポンプの停止、人工肺を患者より高い位置に持ち上げるなどのトラブル時が考えられます。
常時吹送ガスチューブ内の圧力を監視、アラーム報知、自動遮断などの機能を搭載している装置でなければ、ガスフラッシュ中のトラブルを防止するのは難しいです。
ガスフラッシュは回路に異常がないことを確認しながら、できるだけ低流量で行うようにしましょう。
ガスフラッシュの設定流量
ではどの程度の流量・方法で行うのが安全で、かつウェットラングを予防できるのでしょうか。
国内で使用されている人工肺へのガスフラッシュについて研究した論文があります。2)
2)東條ら. 人工肺ガスフラッシュに関する検討. 体外循環技術 Vol.41 No.1 2014(文献リンク)
TERUMO社製CAPIOX-LX、泉工医科社製EXCELUNG PRIME、ニプロ社製BIOCUBEへのガスフラッシュについて、それぞれガス交換能の改善率、適正ガスフラッシュ流量・時間について研究結果から考察されていますので、ぜひご一読していただければと思います。
人工肺の種類によってVQ比は変化する?
VQ比とは血液流量に対するSweep gas流量の比のことです。
各社人工肺の添付文書を見るとガス交換能にわずかに差があることがわかりますが、はっきりとした数値差はよくわかりません。
ガスフラッシュで引用したこの論文内では、人工肺による酸素添加能の性能差には大きな差はないが、ウェットラング状態となったときのガス交換能低下率に各社差がある。と報告しており、時間経過、ウェットラングの程度によってVQ比が変化する可能性があります。
人工肺内の血液凝固によってもガス交換能は変化しますし、さらには患者さんの体格・酸素消費量、脱血した静脈血の値によってもかなり血液ガスデータは変動します。
定期的に人工肺から採血し、血液ガス検査をして目標のデータになるように調節する必要があります。
さいごに
ECMOでの吹送ガスについて現時点でわかっていることをまとめてみました。
V-A ECMOとV-V ECMOでの設定方法の違いや、人工肺別のガスフラッシュの方法など、参考にしていただければ幸いです。
V−AV ECMOへの吹送ガスについてなど、なにか新たにわかることがあれば随時更新していきます!
更新情報はTwitterなどで告知しますので、ぜひフォローしていただければと思います!