ここではTTM(体温管理療法)の最新知見である、High Quality TTMついてまとめていきます。
TTMは心肺蘇生に関するガイドライン上で提言されているものの、施設によって目標体温に達するまでの時間、装置、手技が異なり、統一されたプロトコルはありませんでした。
そのせいでこれまでのTTMの関するガイドラインの根拠となる文献では、TTMによる効果を十分に発揮できていない可能性がありました。
ここでは2020年に発表されたHigh Quality TTMの概念について、ECMO管理を交えてまとめていきます。
- High Quality TTMについて
- High Quality TTMの方法
- High Quality TTMを意識したECMO管理について
TTMに関する世界中のガイドラインを別記事でまとめていますので、こちらも合わせて読んでいただけたらと思います!
目次
High Quality TTMとは?
こちらの論文からです。
PCAS(心停止後症候群)による二次性脳損傷を予防し、神経学的転帰を改善することを目的としたTTMですが、これまで冷却をするための装置や、冷却速度、温度、復温速度、鎮静方法などのプロトコルは施設によって大きくばらつきがありました。
このばらつきが影響しTTMの効果を発揮できなくなることを防ぐため、また今後のTTM研究の標準化のために、統一したプロトコル=High QualityなTTMという概念が提唱されました。
High Quality TTMではいくつかの分類にして管理方法を提唱しています。
・開始のタイミング
・冷却期
・冷却後(復温期)
・シバリングなどへの適切な処置
などから構成されており、それぞれ細かく管理方法が示されています。
High Quality TTMのポイント
施設間のTTMプロトコルのばらつきによる副作用や、二次性能障害を防ぐため提案されるTTMの施行方法を、以下にまとめます。
開始のタイミング
- TTMはできるだけ早期に開始する
- しかし、搬送時(病院前)での大量冷却輸液は推奨しない
大量冷却輸液は転帰を改善せず、入院時の肺水腫が多いとの報告があります。
参考文献:Bernard SA et al. Circulation. 2010;122:737–742. (リンク)
さまざまなガイドライン上で病院前の大量冷却輸液は推奨されていません。
冷却フェーズ
- 体温は開始した直後に膀胱、食道、血管内(動脈・静脈)で測定
- 腋窩や耳、直腸での体温測定は避ける
- 目標体温は33℃または36℃の間で選択した値で厳密に管理する
- 少なくとも24時間以上行う
急性脳損傷での脳の温度は中枢温度より0.4〜2.0℃高くなることがあり(※1)、また直腸温は中枢温度より遅れて変化する(※2)ため推奨されない、と記載されています。
参考文献:(※1)Rossi S et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2001;71:448–454.(リンク)
参考文献:(※2)Shin J et al. Resuscitation. 2013;84(6):810–817. (リンク)
また、High Quality TTMの中では目標体温について次のように言及しています。
- 結局33℃?36℃?
- どちらが有益であるかはまだ不明。
出血や重度の血行動態障害など、低い温度で有害事象のリスクが高まる患者には高い目標温度(36℃)、
長時間のCPR、脳浮腫所見などがあり、高い温度によって神経障害のリスクが高まる患者には低い目標温度(33℃)
が好ましい可能性がある。
と、この論文の中では患者さん次第で目標温度設定を変える必要がある可能性を示唆しています。
このどちらがいいのか、TTM 2 trialで少しだけ進展がありましたので別記事にまとめています。
復温フェーズ
- 自動制御が可能なTTM装置を使用して、0.15〜0.25℃/hの速度で加温する
- 復温終了後も少なくとも48時間以上注意深く体温管理を行う
復温の速度は、予測できない再加温速度になる可能性がある自発的なものではなく、特定のTTM装置を用いるべきと記載されています。
そもそも1時間に0.15〜0.25℃の速度での加温は手動ではかなり難しいと思われます。
自動制御可能なTTM装置として、日本国内では、体表冷却法を用いるArctic sun™、メディサームⅢ、BLANKETROL®Ⅲや、血管内冷却法を用いるサーモガードシステムがあります。
引用元:Arctic sun™ 日本BD(サイトリンク)、メディサームⅢ IMI株式会社(サイトリンク)、BLANKETROL®Ⅲ GENTHERM Medical(サイトリンク)、サーモガードシステム 旭化成ゾールメディカル(サイトリンク)
また、TTMの終了後も持続的に発熱の管理をするように提唱されています。
薬理学的介入、装置の選択
- TTMを受けるすべての心停止患者に鎮静薬と鎮痛薬を使用し、シバリングに適切に対処する
- 筋弛緩薬の併用は目標体温への迅速な到達に有効である
- TTMを行う際は温度フィードバックシステム(TFS)を搭載した装置を使用する
TFSを搭載した装置は上記の通りです。
High Quality TTMのまとめ
- TTMはできるだけ早期に開始する
- しかし、搬送時(病院前)での大量冷却輸液は推奨しない
- 体温は開始した直後に膀胱、食道、血管内(動脈・静脈)で測定
- 腋窩や耳、直腸での体温測定は避ける
- 目標体温は33℃または36℃の間で選択した値で厳密に管理する
- 少なくとも24時間以上行う
- 自動制御が可能なTTM装置を使用して、0.15〜0.25℃/hの速度で加温する
- 復温終了後も少なくとも48時間以上注意深く体温管理を行う
- TTMを受けるすべての心停止患者に鎮静薬と鎮痛薬を使用し、シバリングに適切に対処する
- 筋弛緩薬の併用は目標体温への迅速な到達に有効である
- TTMを行う際は温度フィードバックシステム(TFS)を搭載した装置を使用する
High Quality TTMを意識したECMO管理について
低体温管理から平温管理へ
V-A ECMO(ECPR)は心肺蘇生においての最終手段として使用されますが、その体温管理についてはHACA study1やBernard study2が発端となり低体温による管理が行われていました。
参考文献 1. The Hypothermia after Cardiac Arrest Study Group, N Engl J Med, Vol. 346, No. 8 · February 21, 2002(リンク) 2. SA Bernard et.al, N Engl J Med, Vol. 346, No. 8 · February 21, 2002(リンク)
そして2013年のTTM trial3によって36℃と32℃での神経学的予後が有意差なしとの報告がされ、現時点ではV-A ECMO運転中も平温療法(36℃付近)での体温管理が普及しています。
参考文献 3. N Nielsen et al. N Engl J Med 2013; 369:2197-2206, December 5, 2013(リンク)
その後ECMO管理に限定した体温管理についての高いエビデンスとなる報告はありません。
ECMO管理中のTTM
VA-ECMO導入時〜維持期においての体温管理は、このHigh Quality TTMに準じて行われるべきと考えられますが、ECMOでの自動温度制御は難しいところです。
ECMO・PCPSバイブルの中では次のように言及されています。
ECPR施行患者の体温管理療法の適応と特徴 ・特徴1:補助循環装置を使用しない場合は、血行動態不安定な場合には体温管理療法(TTM)の適応外になる。 ・特徴2:目標体温までの冷却スピードが速い。 TTMの適応 ECPRではROSC前からECPRが開始されているが、TTMの適応、除外基準については非ECPR例と同様に考えてよいと思われる。 ECMO・PCPSバイブル p239より引用
ここでいうTTMは循環動態への影響や冷却スピードについての記載から、低体温(32〜33℃)を目標にしたECPRでの管理についてかと思われます。
High Quality TTMでのできるだけ速やかに導入するフェーズに関しては有利ですが、
やはり復温期での自動制御がネックになりそうです。
やはりECMO(ECPR)を利用したHigh Quality TTMを達成するためには、
体表冷却法でのTTMを組み合わせ、目標体温の維持管理、合併症や発熱の予防を厳密に行う必要がありそうです。
目標温度については、やはりよく協議した上で決定し、行う必要があります。