ここでは2021年末に発表された多施設RCTであるTTM 2 trialについてまとめていきます。
TTMについてのガイドラインや、最近の論文であるHigh Quality TTMについての記事と合わせてTTMに関する記事は3記事目となります。
蘇生ガイドラインや体温管理療法のプロトコルであるHigh Quality TTMの中でも
目標体温を32℃〜36℃にすることを推奨する(その中で決めて維持する)とされ、
では厳密に何℃が適切なのか、その議論が長い間続いています。
今回その議論に終止符を打つ?打った?TTM 2 trialについて、ECMO管理を交えてまとめていきます。
- TTM 2 trialについて
- 蘇生時目標体温
- TTMという用語について
- V-A ECMO(ECPR)時の目標体温について
目次
TTM 2 trial
こちらの論文です。
概要
ざっくり言うと、低体温療法 vs 平温療法(33℃ vs 37.5℃以下)による6ヶ月後の死亡率を比較したRCTになります。
結果は
6ヶ月後の全死亡率は低体温群が50%(465 / 930例)、平温療法群が48%(446 / 931例)で
低体温による相対リスク1.04(0.94-1.14)、p値0.37、有意差なし。
サブグループ解析においても有意差なし。
となりました。
この結果を受けて様々なガイドラインが変更されています。
少しですが重要だと思われるところをまとめていきます。
研究の背景
歴史的には、低体温療法によって神経学的予後や死亡率が改善したとされるHACA study1やBernard study2がありますが、これらの研究では対照群で多くの発熱を認め、体温管理に問題があると指摘されていました。
参考文献 1. The Hypothermia after Cardiac Arrest Study Group, N Engl J Med, Vol. 346, No. 8 · February 21, 2002(リンク) 2. SA Bernard et.al, N Engl J Med, Vol. 346, No. 8 · February 21, 2002(リンク)
このTTM2試験では、標準体温療法群の目標体温を37.5℃とし、体温が37.8℃以上になった場合は速やかに自動制御型の冷却装置によって37.5℃に調節するようなプロトコルが組まれました。
研究プロトコル
PICO
P;院外心停止後に昏睡状態が持続している18歳以上の患者
I;低体温療法(33℃)
C;平温療法(37.5℃以下)
O;6ヶ月後の全死亡率
目撃者なしで、かつ初期波形がAsystoleの患者、ROSC前のECMO導入患者などは除外
低体温群のプロトコル
対象患者に対してランダムに割り付けを行い、冷却輸液や体温療法デバイスを用いて28時間後まで冷却(33℃)し、復温を開始。
40時間後までに1時間ごとに1/3℃(3時間に1℃)ずつ復温。(12時間復温)
平温(標準)群のプロトコル
対象患者に対してランダムに割り付けを行い、割り付け後40時間まで37.8℃を超えないように調節。
解熱剤や室温などを調節しても目標体温を超える場合は冷却輸液やデバイスを用いた冷却を行う。
介入終了後プロトコル
どちらの群も介入終了後に昏睡状態が持続する場合は標準体温(36.5℃〜37.7℃)で管理。
37.8℃以上になる場合はデバイスを用いて冷却を行う。
結果
1900例の患者が組み入れられ、最終的に1861例が割り付け。930例が低体温療法、931例が平温療法に割り付けられた。
6ヶ月後の全死亡率は低体温群が50%(465 / 930例)、平温療法群が48%(446 / 931例)で
低体温による相対リスク1.04(0.94-1.14)、p値0.37、有意差なし。
サブグループ解析においても有意差なし。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2100591
低体温療法vs平温療法に有意差なしだけど・・・
TTM2試験の結果は死亡率に有意差なしとなりました。
しかも低体温療法群において循環動態に悪影響を及ぼす不整脈の発生率が有意に高かった(低体温療法群24% vs 平温療法群16% p<0.001)ことがわかり、33℃の低体温療法の有効性を示すことができませんでした。
ここで注意が必要なのが、この研究の結果から、TTMをしなくてもいいという結論ではないことです。
むしろすべての患者において発熱を予防させたことが予後を改善させた可能性もあります。
TTM2試験の体温管理方法や、High Quality TTMのプロトコルのような、厳格な目標温度管理(発熱をさせないこと)が必要であるということでしょう。
低体温療法をするべき患者がいる・・?
今回のTTM 2試験の結果は低体温群と平温群との有意差はないと報告されましたが、
あくまでこの患者対象群でのルーチンによる低体温管理療法を施行する場合に限ります。
HYPERION study3などでは、脳損傷の大きい患者(心停止時間が長く非ショック適応患者)で低体温療法が予後を改善したという報告がされており、TTM2試験の論文内でも考慮すべき点として言及されています。
参考文献;3. JB Lascarrou et.al, N Engl J Med 381;24 nejm.org December 12, 2019(リンク)
TTMという用語はなくなっていく可能性がある
2021年にこのTTM 2 trialの結果を受け、ILCORからの国際的コンセンサスのドラフト版の発表がありました。
We suggest actively preventing fever by targeting a temperature <37.5 for patients who remain comatose after ROSC from cardiac arrest (weak recommendation, low certainty evidence). 成人心拍再開後昏睡患者には目標体温を37.5℃とする積極的な発熱防止(Control Temperature)を提案する。 ILCOR 2021 こちらから引用
また、TTMという用語が研究名と混同する、TTM=特定の体温での管理(おそらくTTMといえば低体温となってしまうこと)となることを避けるため、今後TTMとは呼ばないようにすることを提案しています。
そしてTTM2 trialの結果とILCORの国際的コンセンサスを受けて、
ERCガイドラインも2022年版を発表し、同じ内容を報告しています。
参考文献:Sandroni C, Nolan JP, et al. PMID: 35089409.(リンク)
2022年3月にはIMIのホームページ上でもTTM2 trial後のPCAS戦略について提言しています。
参考記事:TTM2後のPCAS戦略“TTM/TTM2 Trialの誤解を解く”(リンク)
このページでは香川大学の黒田泰弘先生が積極的な発熱防止について、actively preventing fever : APFという言葉を用いて解説しています。
ガイドライン上ではAPFという用語は見当たりませんでしたが、今後この用語が用いられる可能性がありますので要チェックです。
V-A ECMOでもTTMが重要になる
ここからは完全に私見なので参考程度に見てほしいのですが、
蘇生ガイドラインやこれらの研究から、院外心停止に対する体温管理は「発熱を防止する」という方向に向かうと思われます。
V-A ECMOの導入は脳損傷が比較的小さいであろう患者が選択されやすい(可逆的であると推測されやすい)ので、ルーチンでの低体温管理は行われなくなっていくでしょう。
この研究はROSC前のECMO導入患者を除外していることや、低体温管理が奏功する可能性に関する今後の報告も期待できるので、まだ結論が出たわけではありません。
また、ECMOでの体温管理では人工肺に付属している熱交換器によって行われますが、患者体温をモニタリングし温度制御をするものではないため、発熱予防のより厳格な体温モニタリングが重要になるかと思われます。
それぞれの施設で医師や看護師さんたちとこれまでの情報を共有し、協議した上で管理していきたいと考えています。