ここではV-A ECMOについての基本情報から、適応についてを解説していきます。
V-A ECMOってなに?
PCPSとECPRとの違いは?
なぜ急がなくちゃいけないの?
どんな状況で使うの?
などを解説していきます!
- V-A ECMOの目的
- V-A ECMOの特徴
- V-A ECMOの導入基準について
- V-A ECMO、PCPS、ECPR、Cardiac ECMOとの違い
ECMOに関する基本情報についてはこちらの記事をどうぞ!
目次
V-A ECMOとは?
V-A ECMOはVeno-Arterial Extra Corporeal Membrane Oxigenationの略で、
静脈-動脈 体外式膜型人工肺と訳されます。
いわゆるPCPSと呼ばれていたものです。現在では状況によってECPRなどとも呼ばれています。
どんな人に使う?
V-A ECMOは『心肺停止または重篤な呼吸不全に対して、人工心肺を用いて血液循環を代行するもの』と定義されています。
要はなんらかの理由で弱ってしまった心臓と肺を代行し、脳や全身の臓器などへ酸素を送り届ける方法と言えます。
この『なんらかの理由』については後述します!
どうやってやるの?
簡単な図を書いてみました
大腿部にある静脈と動脈にカニューレを刺し、ECMO回路をつなげて遠心ポンプによって血液を循環させます。(心臓の代行)
回路の中には人工肺が組み込まれており、そこで血液のガス交換を行うことで全身に酸素を届けることができます。(肺の代行)
送血・脱血の位置は主に大腿が使用されますが、左右、もしくは片側へ2箇所カニュレーションされます。
主に足の動脈から全身へ酸素化した血液を送ります。
心臓の動き方によって管理方法が変化します。
ECMOのために血液を体外へ出すにはカニューレが必要になります。
そのカニューレにECMO回路を接続することでECMOを行うことでできます。
ECMOのカニューレについてはこちらからご覧ください!
ECMOカニューレの選び方を徹底解説!メーカー別にまとめましたV-A ECMOの特徴
とにかく急いで導入!
このV-A ECMOは、超迅速に開始させることが最大の特徴です。
心肺停止状態に陥って一番速くダメージを負ってしまう臓器は脳です。
人間は心肺停止後1分ごとに7〜10%ずつ救命率が下がる1ことが報告されており、1分1秒でも速い適切な心臓マッサージの開始や、AEDの作動による心拍動再開が必要です。
しかしこのような従来の心肺蘇生法でも心臓の機能が戻らない場合があり、脳の機能を守るため、V-A ECMOが適応になります。
1分1秒でも速いV-A ECMOの導入によって救命率を上げることができるため、V-A ECMOの適応があればすばやくに準備する必要があります。
病院の外で心肺停止になった場合、救急要請(119番通報)から現場到着まで全国平均で約8.7分。病院収容所要時間は全国平均で39.5分2となっており、その間、病院内ではV-A ECMOを導入するための準備をする必要があります。
心肺停止からV-A ECMO開始までを60分以内に行うと生存率を上昇させることができるという報告3などから、病院到着後いかにすばやく導入できるかがカギになるのです。
この導入までの時間は短ければ短いほど生存率を上昇させることがわかっています。
参考文献
1.European Resuscitation Council, Resuscitation, 2000; 46: 73–91.(リンク)
2.令和2年版 救急・救助の現況より(リンク)
3.Chen YS, et al : JACC Journal (文献リンク)
V-A ECMO用の回路も急いで準備!
V-A ECMOは迅速な導入がカギとなります。
そのため、ECMOの回路も迅速に準備する必要があります。
人工心肺とは違い、ECMOの回路は慣れれば5分以内にセッティングが可能です。
どの会社のECMO装置も素早くセッティングできるようなプレコネクト回路という、すでに回路がすべて組まれている状態になっており、少しトレーニングをすれば、素早い準備が可能です。
TERUMO ECMO回路
キャピオックスカスタムパック
EBS心肺キット
夜間帯など、当直や夜勤で臨床工学技士がいない施設もあります。
医師や看護師がプライミングをする必要がある施設もあり、いざというときに準備ができるように一度確認しておくことをおすすめします。
カニュレーションが重要!
患者さんの血液を体外に出すためのカニューレもV-A ECMO用のものを使用します。
泉工医科 経皮的挿入用カニューレ PCKC-A,V
引用元:泉工医科ホームページ(リンク)
基本的に心臓が止まってしまっているため、上半身では心臓マッサージをしながら、下半身側でカニュレーションをする必要があります。
心臓マッサージによって体が揺れる中、約6mm径のカニューレを主にセルジンガー法で挿入します。
超音波エコーや透視装置を使用しながら、動脈、静脈にそれぞれ1本ずつ挿入しますが、すばやくかつ正確に挿入しなければならないため、熟練の技が求められます。
合併症を防ぎながら1発勝負という厳しい技です。。
カニュレーションはほぼ一発勝負なため、事前の準備、確認も重要です。
施設内でのECMOカニューレについて、サイズや物品の確認をしておくことをおすすめします。
V-A ECMOの適応
V-A ECMOの適応
V-A ECMOは『可逆的な(助かりそうな)低心機能症例』のみに適応されます。
この『可逆的』というのがポイントで、だれにでも導入していいわけではなく、原因が上記の疾患であっても心停止後からの時間経過が長くなってしまっていたり、高齢(だいたい75歳以上)であることや、脳出血などの合併症があると判断されると、適応外となります。
心臓の機能が可逆的ではなくても、心移植やVADの植え込み可能患者であれば適応と判断されることがあります。
V-A ECMOの適応についてはこちらで詳細にまとめています!
V-A ECMOの適応基準をまとめました!【ECPR,PCPSの適応】V-A ECMO導入の判断
心停止や循環不全からの時間経過や、施設内の状況によって適応内なのか、どこで導入するのか、など医師は迅速で的確な判断が求められます。
この適応基準について、現在は日本で行われたECPR(V-A ECMOを用いた心肺蘇生)の多施設共同研究であるSAVE-J study4で設けられた適応・除外基準をもとに判断している施設が多いようです。
参考文献:4. Sakamoto T, et al. Resuscitation. 2014 Feb 12 in Press(文献リンク)
SAVE-J study適応・除外基準
- 20~75歳
- 救急隊接触時、初期波形が心室細動または無脈性心室頻拍
- 119番通報あるいは心停止から病院到着まで45分以内
- 病院到着後15分間心停止が持続している
- 目撃者の有無は問わない
- バイスタンダーによる心肺蘇生の有無は問わない
- 病院到着時心停止、病院到着までの間の自己心拍再開の有無は問わない(注)
- 20歳未満または75歳以上
- 発症前のADL(日常生活動作)が不良
- 原疾患が非心原性
- 深部体温30℃未満
- 代諾者の同意が得られない場合
(注)現在、病院到着時に心停止の状態や、病院到着までの間に自己心拍再開がない状態の場合、予後不良とされているため、この項目に関してはEcmorusunの施設では適応外としています。
V-A ECMOの導入は1分1秒を争う事態なので、適応基準などは事前に施設内で吟味し、準備しておくことをおすすめします。
PCPSは別のもの?
V-A ECMOとPCPSはおなじ!
PCPS(Percutaneous caidiopulmonary support)は経皮的心肺補助装置、と装置名を指していて、ECPR(Extracorporeal Cardio-Pulmonary Resuscitation)は体外式心肺補助法、と方法を指しています。
さらにCardiac ECMOは心臓へのECMO、とそれぞれ呼ぶ対象が異なるためこうして分岐してしまいました。
なかでも『PCPS』は1991年のPCPS研究会発足を皮切りに日本国内で普及したようで、この呼び名は最近まで日本や韓国でしか使われていませんでした。
現在、日本から世界へ良質なECMOの情報発信ができるほど日本の成績が向上してきたため、ようやくV-A ECMO、V-V ECMOと呼び名が統一され始めてきています。
PCPS研究会が名称やロゴを変更したのも大きな変化かと思われます。
ちなみに海外の文献を探す際には『ECLS』、『CPS』、『percutaneous cardiopulmonary bypass』、『emergent portable bypass system』などと検索するとECMO関連のものが漁れます。
ややこしいですが、これからはV-A ECMOと呼ぶのが無難だと思います・・
まとめ
ここではV-A ECMOの概要について解説しました。
V-V ECMOに比べて、とにかくすばやく、確実に導入しなければいけません。
慌ててミスをすれば取り返しのつかないことになりかねませんので、事前の準備や打ち合わせが重要になりますね。
しつこいようですが、自分の施設ではどのような準備が行われているか、どう動けばいいのかなどを確認しておきましょう!